原子力タイムトラベル
         藤家 洋一
(株)ERC出版(1998.12.8出版)
220p 21cm(A5)
ISBN4-900622-13-3 c0040 \1,500E
定価1,575円(本体1,500円)
発電は原子力の一部 今後可能な展開探る
現在日本では約50基の原子力発電所があり、電力の約3分の1を供給している。チェルノブイル大事故の影響や、国内の事故への情報隠しとも受け取られかねない動燃の対応などから、日本人の間には原発への不安や不信が根強い。
本書のタイトルに、たいていの人が「ああ、原発PRの本か」と思うにちがいない。だが、そうではない、と原子力委員の一人であり、原子炉の安全性については日本の第一人者と目される著者は言う。世間では原子力は原子力発電を中心としたイメージが強いが、それは原子力の一部でしかなく、ミクロ世界の科学技術をまとめて表現する言葉として「原子力」と呼ぶことがふさわしいと著者は考える。核という極微の世界に何が潜み、ミクロ世界と人類社会とのこれまでのかかわり、これからどんな展開が可能かを探る著者のタイムトラベルは、産業革命、ルネッサンス、ギリシャ、そして人類の誕生までと筆は冴える。
ミクロ世界には多くの可能性がある。現代の石油文明と共存し、将来的にはこれに置換できる能力を育てること、軍事利用を否定し、資源を最大限活用し、廃棄物を極力なくし、「リサイクルとゼロリリースの文明」を作り上げる、個人のライフスタイル変更の努力が21世紀には求められている、と説く。
だが、現実は原発に限っても、放射性廃棄物の安全な処分方法と最終保管場所が科学的には未解決なまま見切り発車されようとしている。この点についての著者の見解はどうか。1972年、アフリカのガボン共和国のオクロ鉱山から、20億年前、100万年もの間自然に安全に、安定して連鎖反応を続けていた天然原子炉の化石が発見された。ウランからできたプルトニウムなども放射能のない物質に変わっている。この事実を研究開発の大きな参考として、地下埋設と放射能消滅のむずかしい課題も人類文明の時間範囲で解決できれば、と著者は考える。
原子力の平和利用について、肯定的であれ否定的であれ、関心を持つすべての人々が専門家任せにせず、議論を深めることが今何よりも必要なことと思われるが、本書はそのための必読の一書である。
(財団法人 アジア学生文化協会理事長 小木曽 友)
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